レオニスの泪
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「先輩、フィボナッチ数列ってすごいよね。」
忙殺されている僕が、朱李と会えるのは、真夜中。
それも、僕が住むマンションに、彼女がひょっこりと顔を出すという、申し訳ない状況。他に方法がないけれど、危ないから来なくていいと言うと、当然のごとく朱李は拗ねて、原付の免許を取った。
疲れ果てている僕は、大抵ぐったりとしていて、何をする力もない。
ただ、大学にいた頃のように、朱李ととりとめのない話をする。
少しでも良いから会いたいと、朱李が言うと、僕はこんな風な時間の取り方しかしてやれなかった。
「…そうだね。」
「あれが偶然に出来たって思う?」
ソファの端にちょこんと座る彼女も、眠たそうに目を擦っている。
「ーどうかな。」
「自然界のことは、全部数式で説明できるんだって。」
インスタントの珈琲の香りは、睡眠導入剤のように心地良く。
「先輩、目、赤い。」
無言の僕の顔を、飛び起きた朱李が覗き込む。