レオニスの泪
「在学中………アカと、上手くいけばいいと思っていたのは俺なんだけどさ…、」



岩崎は、朱李の事を何度か僕に推した。

かといって、僕は岩崎がそうしたから、彼女を気に掛けた訳ではなかったし、むしろ、遠ざけようと思った事もあった位、面倒だった。

じゃ、何がきっかけだったかって言うと、それはやっぱり、彼女が僕の事を、コルレオニスの持ち主と呼んだのが始まりだったような気がしているこの頃。


「何。今更お前がそんな申し訳なさそうな顔する意味が分からないよ。」



言いながら白衣のポケットに手を突っ込んだ所で、院内専用の携帯が鳴った。


「神成、知ってたか?本人から聞いてないか?」

「悪い、呼び出しだ、もう行かないと。」


ここまで来てもらって、最後まで話せないでさよならなんて、嫌な奴かもしれないけど、今はそんなことー朱李のことーに構っている余裕は、一時たりとも無かった。


慌てて踵を返し、利き足を動かした瞬間。








「アカの奴、お前が忙殺されてた最後の年の冬、自殺未遂してんだ。」






病院の窓の外はまだ明るくて。



遠くで幼い兄妹が、走り回ってじゃれあって、看護師から怒られている。


僕に見えた景色は、いつもと代わり映えしなかった。






聞こえてきた友人の音だけが。



非日常で、異質で、どす黒かった。
< 272 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop