レオニスの泪


その日の夜。


玄関で靴を脱いでいると、パタパタとスリッパで駆けてくる音がした。



「おっ…かえりー。どうしたの?今日は早く帰れたんだね!」


驚いた顔で僕を迎えた朱李は、言葉の終わりに嬉しそうに笑った。

早く、と言っても、時計の針は零時を回っている。

どんなに急いでも焦っても、精一杯だった。



鞄が床に落ちて。




「ど…した…」



僕はただいまも言わずに、朱李を強く抱き締める。


ー『知っていた人間は、殆どいなかったみたいだけど、アカの奴、暫く入院して、単位取れなかっただろ。一年留年してる筈。』



再び震え、鳴り出した携帯も無視して振り返った僕に、岩崎はそう言った。

『しかも、どうも、初めてじゃないらしいんだ。なぁ、神成。もしかしたらー』


僕は。


「伊織??」

どうして気付かなかったんだろう。


ー『アカは、とんでもない闇を抱えているのかもしれない。』


どうして疑わなかったんだろう。


抱き締めた朱李の背中を、ひとつの場所を、伝わるようになぞった。



「朱李…この傷痕の本当の理由を教えて。」


白い肌に、大きく残された、彼女の持つキズの意味を。
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