レオニスの泪
ーなんとか、間に合いそう。
先週まで青かった大学病院の樹木が、早くも色づき始めたことを確認しながら、駐輪場まで走らせて安堵した。
家の中もしっちゃかめっちゃか。
自分のお弁当も作れずに出てきてしまって、朝ごはんもシリアル一色。
慧は、今ごろお腹を空かせているだろう。
寝坊した理由はわかっている。
自転車から急いで降りたにも関わらず、無意識に見つめたのは職員の駐車場。
建物の陰になって、端っこしか見えないけれど、死角の向こうにはきっと神成の車があるに違いなかった。
あの夜から、神成の事が頭から離れてくれない。
かといって、行動らしい行動を起こす気はない。
この気持ちと向き合ってはいけない。
だけど、気づけば直ぐにまた神成の事を考えている。
負のスパイラル。
果たして明後日の水曜、あの公園で彼は私を待っていてくれるのだろうか。
そして私は行くべきだろうか、行かないべきだろうか。
答えの出せない案件。
これが寝不足の原因だった。
ーいけないっ
はっとして、私は駐車場に背を向け、走り出す。
就業時間まで、あと僅かだった。