レオニスの泪
金森の態度に引っかかるものを感じつつも、朝のミーティングの時点ではもう気にならない程度になっていた。
今日の自分の動線を確認し、そのまま手を洗う。
「うふふふ」
その隣に来た笹田が、いつもに増して上機嫌オーラを醸し出している。
ーこれは聞いてほしいっていう顔だ。
チラ、とその様子を見て、思案する。
ー面倒だから、気付かないフリをしたいけど…
「ふふふふ」
こんな一人で笑う50代を放っておくと、後で痛い目に遭いそうだ。
「…何か良い事でもあったんですか?」
仕方なく訊ねると、待ってましたとばかりに笹田が輝かせた顔をこちらに 向けた。
「そうなのよぉー、わかる??」
分かるも何も、とうんざりした気持ちを庇いつつ、ペーパーで手を拭う。
「なんか、さっきからにこにこしてるので。」
「やだぁ、顔にでちゃうのよねぇ。」
「…若い証拠ですよ。」
「そうかしらぁ」
自分で言ってて、褒め言葉おかしくないか?と自問してしまう位だが、笹田は喜んでいる。
「実はね…離婚したの。」
「そうですか、良かったですね………へ!?」
「葉山さん、静かに!」
「あ、、、すみません。」
素っ頓狂な声を上げてしまったせいで、遠くにいた金森から注意を受ける。
「り、離婚って、、ご主人とですか?」
縮こまって、野菜の鮮度を確認するフリをしつつ、笹田に訊ねると、彼女は「違うわよ」と怪訝な顔をした。