レオニスの泪
こんな気持ちは、ずっと前に。


慧と二人で生きていく、と決めたー

慧の手を取って、家を出た、あの時に、ゴミ箱に捨てた筈なのに。



どこでどうして、また拾ってしまったんだろう。

もう、男は散々だ。
それなのに、神成のことをもっと知りたいと思う自分がいる。

私はー

ー神成先生のこと、何も知らない。


マンションの場所。
車の種類。
職業。
十中八九独身。
眼鏡をかける時と外してる時がある。



その程度だ。

医者だ。

ただの主治医というだけだ。

好きになるタイミングなんて、どこにもなかった。

なのに。


気になって気になって。


だけど、嫌だ。


女だって、思うことが。


こういう時。

自分は女なんだって実感することが。

すごく嫌だ。

触れる体温。
手を繋ぎそうな距離。
勘違いしそうになる言葉。

忘れていた感覚を、思い出しそうになる。

誰かに触れる自分を。


同時に湧き出てくる嫌悪感。


ーだめなんだ。


この気持ちを認めてしまったら。

慧の母親として、胸を張っていられない。
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