レオニスの泪



=========================




「ねぇ、慧。どこか行きたい所、ある?」


夕飯を作りながら。

畳んだ洗濯物の中、座り込んでテレビと向き合う慧に問うが、夢中になり過ぎていて、聞こえていないらしい。

「ねーえー、けーいー」


フライパンの中では、ピーマンと筍、豚肉が転がって、ジャージャーと音を立てている。


折角の長い休みなのだから、保育所を休ませて、慧をどこかへ連れて行ってあげたい。

それで、慧がどこに行きたいか訊ねようとしているのだが。


返事がない。


仕方ないなぁと、こっそり笑いながら、器に盛り付けた辺りで、慧が、そーだ!と立ち上がった。



「ママ!さいきん、チャルダーマンの青いたおるがないのぉ」


私が声を掛けていたとは露ほども知らない慧は、自分の気に掛かっていた事を、コマーシャル中にぶつけてくる。


「チャルダーマンの?あれ、本当だ。見てないね。」


言われて考えてみたものの、思い当たる節もなく。


「今度探しておくね。」

「うん!」


再び、洗濯物の中に戻る息子を微笑ましく見つめた。






< 303 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop