レオニスの泪
ドキリとした、なんて口が裂けても言えない。

神成の住んでる場所は知っていても、連絡先なんて、知らなかった。

ガチャン、戸が閉まった音で、我に返って、施錠した所で。


「ママー、なんか紙入ってる。」


タイミング良く気付いた愛息子。


「貸して。」

「けいたいの、ばんごう…かぁ。はい。」


まじまじと見つめてから、こちらに差し出す慧。


「ありがとう。ご飯もう出来てるから、すぐ出すね。」

「うん!今日の、ごはんなに?」

「青椒肉絲」

「ちんじゃおーろーすぅー?」

「そうだよ。」

「んー、ピーマン…」

「ピーマン食べると、強い子になれるよ!」


受け取ったメモは、取り敢えずポケットの中に突っ込んで、キッチンへと向かう。

動揺は隠せた、と思う。

動揺どころじゃない。

別に悪い事しているわけじゃないのに、変な汗を掻いている。


「ピーマン…」


ピーマンという単語によって、これからの闘い方を必死に考えている慧を尻目に、私は自分を落ち着かせる為に、ふっと息を吐いて、それから食卓を整えた。
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