レオニスの泪







夕飯の片付けを終えて、慧をお風呂に入れ、寝かしつけた後。




私は、いつもより疲れていないーだけど精神はすり減っているー身体を仰向けにしながら、ポケットに仕舞った紙切れをそっと出して、広げた。

少しよれてしまったそれには、いつかも見た事のある綺麗な文字で、携帯の電話番号が書かれていた。


フラッシュバックするのは、過去に一度だけした恋の始まり。

そして、あの時と同じ、早鐘のような心臓。


まだ自分の年齢は、世間一般的にいえば若いだろう。

だけど、物事をある意味で達観してきてしまった、恋愛なんて男なんて、と思っていた自分が、またあの頃と同じようにー何も知らなかったあの時と同じように、胸を高鳴らせるなんて。


そんなことが、あっていいんだろうか。

しかも相手は、医者で、私が元患者だから連絡先を教えてきてくれたに過ぎないのに。


それでも知れたことに、昨日よりも一歩近づけたことに、こんなに喜んでいる自分。


良心に感じる呵責。


相反する感情がぶつかって、痛む。


だけど、着実に、大きくなってしまっている、ひとつの想い。

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