レオニスの泪
家に帰って来てからの慧には変わった様子はなく、少し引っ掛かりを感じながらも、家事に追われる内に、頭の隅に追いやられてしまった。


夜になっても、大きく占めるのは、明日の事。

すぅすぅと眠る我が子を見つめてから、時計に目をやって、23時を過ぎた頃に、明日の今頃はと考えると、頭が真っ白になった。


ーあんな変な夢を見ちゃったから。


要所要所で、ぶっ飛んではいたものの、感触や感情の流れが、余りに現実味があり過ぎて、混同してしまいそうな、訳のわからない感覚に陥る。


ー早く忘れないと。


あんな夢。

たかだか、数分のただの夢。


それでも。

それが嫌じゃなかったから。

嫌どころか、心地良くて。

川のせせらぎみたいに、穏やかで。


ーだから、やっぱり夢なんだ。


私の人生に、今迄そんな場面は、一度として、無かったんだから。



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