レオニスの泪
虚無感が急激に襲ってきて、私はフラフラとした足取りで、ベンチまで辿り着く。


ー馬鹿みたい。


以前、神成が腰掛けて夜空を見上げていた、あのベンチだ。

思い出される光景は、自分が思わず抱き締めてしまった場面。


ー馬鹿みたい馬鹿みたい馬鹿みたい。


普通の患者とは違う扱いを受けて。
連絡先を教えてもらって。

自分は特別なのかと勘違いしていたんだろうか。

彼の琴線に触れる質問をしてしまい、彼の優しさに甘えて。
ずっと仕舞い込んでいた感情が芽生えて。

そして、今日当たり前のように、ここに来ると信じて疑わなかった。

彼の愛する人が、どうして今彼の傍にいないのか、自分は知らないのに。

彼が薬指に指輪を付け続けているということは、彼が大切な人を忘れられないからに違いないのに。

彼女を思い続けている証なのに。


他者がー

自分が入り込む余地なんて。

最初から、無かったのに。

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