レオニスの泪


当たり前のように、どちらも無言になり、虫の音がリリリ、と聴こえてくると。

私はハッと我に返る。


ー私、今何か口走った…



「…………?????!!!!!」




私はガバッと音がする程、力一杯、神成から放れた。

そしてー

「あ、、な、な……」


顔を真っ赤にして、後ずさり。


「すいませんっ!!!!!」


彼の顔をまともに見る事なく、全速力で家を目指して走った。


心の中で言ってた事を口に出してしまったー

掌を口に当てながら、右も左も前も見ないで、ただひたすら走った。

多分、私の通った道を、車が通っていたら、間違いなく轢かれていたと思うけど、そんなのもよく分からない位に気が動転していて、ぐるぐるして、気持ちが悪かった。


目尻に残る涙にも、呆れる。


ーなんて事を言ってしまったの。


絶対に駄目だって。

そう思ってたじゃない。

直前まで、自分に入る隙もないって分かってたじゃない。


だって。


自分には、、、慧がいるのに。


仕事で、子供で、自分で、手一杯なのに。


恋をする暇なんて、どこにもないのに。


ーどうしたらいいですかって…何言ってんだ、私。


神成はどんな顔をしていただろう。

きっと困ったに違いない。

なんて思っただろう。

こんな、子持ちの女が、何をふざけたことをと思っただろうか。



< 322 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop