レオニスの泪


あの夜、神成は、私が落ち着くまでずっと優しく抱き締めたまま。
泣き止んだ私が、もう大丈夫です、と言うまで、頭を撫で続けてくれていた。

そうして、連絡先を今度はきっちりと交換して、 「今日は帰るね」と言って、帰って行った。


疑問として残されたのは、チャルダーマンのハンカチ。

そして。

『僕は、好きだとか、愛しているとか、そういう感覚は、自分の中から失くなったと思ってる。』

『この気持ちに名前を付ける権利が僕にはないのに』

神成が落としていった、言葉達。

好き、と言われたわけではない。
だけど、好きに、限りなく近い事を言われたんだと思う。

恋人にはなれないけど、っていうことなんだろうか。

私の気持ちを受け入れることはしないけど、受け入れないのとは違う。

何が、神成を突き動かしているのか、知りたいけど、どれだけ考えてもわからなかった。
訊いた所で、教えてくれそうにもない。

もし、自分が勇吾という過去に縛られているのと同じだとすれば。
神成先生の虚像の柱も、今はもういない、『大切な人』のことなんだろうと思う。


ー一体、何があったんだろう。





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