レオニスの泪

帰りの、駅のホームは、かなり混雑していた。

ーもう少し早目に帰れば良かった。

帰宅ラッシュではないが、このままだと座る事は叶いそうにない。

改札を抜けた所にある銀の時計台は、待ち合わせスポットになっているのか、誰かを待っているらしい人が何人もいた。

更にその周囲は、多くの人が行き交っている。

私も、その直ぐ傍を通り過ぎーーー


「………」


見知った顔を、その中から見つけて、思わず立ち止まった。

というより、あまりの衝撃に身体が固まった、という方が正しい。


「ママ?」


手を繋いだ慧が、不思議そうな声で私を呼ぶが、私の視線は一人の人物に釘付けになっていた。



「勇…吾」


息が、止まるかと思った。
時間も、止まったかと思った。

数歩先、あんなに自分を悩ませていた存在が、居る。

愛しくもあり、憎くもあり、今ではもうそれは未練というべきなのか、言葉で説明する事ができず、自分自身理解できない感情を、再会したならぶつけたいと願っていた相手が、直ぐそこに。



< 360 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop