レオニスの泪

雑踏の中。

誰かを待つ、勇吾。

数秒、だと思う。

数秒で、あの時とは違う女(ヒト)が、笑顔でやってきて。

屈託ない、きっと私には出来ない笑顔でやってきて。

勇吾がはにかんだ表情でそれを迎える。

当たり前の様に、二人は隣に並んで。

そして、手を繋ぐ。

勿論私には気付かなくて。

二人だけの、世界で。


「ーママ?どうしたの?」


その背中が小さくなるのを、つい、目で追ってしまってから。

慧の呼びかけに漸く振り返った。


「…なんでもない。すごい混んでるなぁって思って。さ、行こうか。」


心配そうな慧を、安心させる様に、笑い掛けて、手を引っ張った。



ー泣いてない。


現実は、予想とは違った。


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