レオニスの泪
挨拶は返ってこなかった。
ー早過ぎたかな。
やや拍子抜けした感じで、身体から力が抜ける。
いつもより少し早く来た所為か、店内は薄暗く、ガランとしていて人気がない。
だが、鍵が開いていたのだから、誰かが来ている筈だ。
ー金森さんかもしれない。
狭い通路で、手にしている菓子折りの入った紙袋が、調理場を突っ切る際に引っ掛かって、ガサと音を立てた。
無防備に、何も考えず、バックヤードを通ろうとして、ドアを開けー
「おはよう。」
硬直した。
頭が真っ白になって、指の感覚も消えて、紙袋がバサリ、床に落ちる。
「なんでそんな驚いてんの。俺がいたっておかしくないだろ。」
いつかみたいに。
事務机から振り返って、こっちを見ている、木戸。
ギィ、と椅子が音を立てる。
逃げないと。
警告が発せられているのに、身体はピクリとも動こうとしない。