レオニスの泪
「あ、葉山さん…」
「ちょっと!?」
もう、駄目だ、と思った。
ここで、作り笑いを浮かべて、おはようございます、長いお休みありがとうございましたと、何事もなかったように振る舞えたら、満点だったのかもしれない。
それで仕事をこなして、慧を保育所に迎えに行って、夕飯の支度をして、いつも通りできたら、母親としても平均点は超えたのかも。
それとも、ここでもう嫌だと泣き叫んで、嘘だと思われようと、信じてもらえなくとも、全部喚き散らして、助けを請えたら、赤点でも努力賞は貰えたのかもしれない。
だけど、私には、どっちも無理だ。
全部、無理だ。
「葉山さん!!!」
走って、走って、走って。
もう、いられない。
もうあそこにはいられない。
いけない。
近寄れない。
「はっ、ひっ、はっ」
息も吸えないあんな場所には。
もう、嫌だ。
どうして、生きてるだけなのに。
何も、贅沢なんてしてないのに。
世界は血の味がするんだろう。
世界は、真っ赤なんだろう。
私は。
ただ。
精一杯。
ここに居る、だけなのに。