レオニスの泪




「あ、葉山さん…」
「ちょっと!?」


もう、駄目だ、と思った。


ここで、作り笑いを浮かべて、おはようございます、長いお休みありがとうございましたと、何事もなかったように振る舞えたら、満点だったのかもしれない。

それで仕事をこなして、慧を保育所に迎えに行って、夕飯の支度をして、いつも通りできたら、母親としても平均点は超えたのかも。

それとも、ここでもう嫌だと泣き叫んで、嘘だと思われようと、信じてもらえなくとも、全部喚き散らして、助けを請えたら、赤点でも努力賞は貰えたのかもしれない。

だけど、私には、どっちも無理だ。

全部、無理だ。




「葉山さん!!!」




走って、走って、走って。

もう、いられない。

もうあそこにはいられない。

いけない。

近寄れない。


「はっ、ひっ、はっ」


息も吸えないあんな場所には。


もう、嫌だ。


どうして、生きてるだけなのに。


何も、贅沢なんてしてないのに。


世界は血の味がするんだろう。

世界は、真っ赤なんだろう。


私は。

ただ。

精一杯。

ここに居る、だけなのに。

< 367 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop