レオニスの泪





夕飯を終え、明日の支度や、洗濯に追われる時間。




「あ、僕のチャルダーマン!」


この間返してもらったチャルダーマンの青いハンカチを、保育所の鞄に入れようとした所で、見つけた慧が嬉しそうに叫んだ。

お風呂から出たばかりで、蒸気している頬が可愛い。


「見つかったんだー、僕のお気に入り。良かったぁ。」


私の手にあるそれを自分の手に取って、まじまじと見つめる。

「良かったね。好きなだけ見てていいから、後で鞄に入れておいてね。」


言いながら、私はアイロン掛けに取り掛かろうとして、くしゃとなった対象物を見つめた。

それは私が借りていた神成のハンカチ。


ー今日返そう。


丁寧にアイロンを当てながら、いつか神成がしてくれたハンカチの話を思い出そうとした矢先。


「ねぇ、ママぁ、これ、あのお医者さんの匂いがするねぇ。」
「ふーん…ーーえっ!?」


驚きで、思考も動きも止まって、慧を振り返る。

くんくん、と犬のように鼻をハンカチにくっつけて嗅ぐ慧。



「あ、っとえっと…そう!拾ってくれたみたいよ?先生が、届けてくれたの。」


間違ってない。

間違ってないのに、何故、こんなに焦ってるんだ、自分は。



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