レオニスの泪
当たり前のように差し出されたそれは。
ーーブラック……
「僕も、実はブラック派なんだよね。」
【も】と言いつつ、自分の分を注いでいる神成が、伏し目がちに呟く。
以前、それも、かなり前。
私は、ブラックで飲むのが好きだと言った。
あんな、些細なことを、覚えていてくれた。
「祈さんのくれた珈琲豆美味しくて、実は最近あのお店を時間がある時には利用しているんだよね。いつもマンデリンばっかり頼んでたから、たまには変えてみようと思って、今回はブラジルにしてみた。」
そんな事が、嬉しくて。
同時に、心に刺さる。
「あそこの店長さんこだわる人だよね。絶対100gずつ一週間毎に買うのがオススメって言うし、最近なんか、店で挽いてもらうんじゃなくて、自分で家で挽くのを勧められたよ。祈さんは、自分で……」
今夜の神成は、やけに饒舌で。
ひりつく心に、優しく沁みる珈琲の香りは、反則だと思う。
ああ、ほら。
いとも簡単に、我慢していた涙が溢れて、零れて、折角の珈琲が、塩辛くなってしまう。