レオニスの泪
声に出して、醜く泣かないように、唇を噛んで、ぐっと我慢する私の手は震えていて。
そこに、神成はそっと触れると、カップを取り上げた。

神成の手は、温かい。

誰かの手は、温かい。

自分だけじゃなく。
小さな掌でもなく。

この手は、温かい。

頼りたい、頼ってしまいたい、この手に、この人に、全部。


ぐらつく。

自分の今迄が。

ぐらぐらぐら、と。

目をぎゅっと閉じて、なんとか全てを制そうとして。


「そんなに噛むと、」


唇に、何かが触れた。

それは、さっき、手にも触れた温度。


「血が、出るよ。」


驚いて目を開くと、神成の人指し指が、私の唇に触れていて。

車内に差し込む街灯の青白い光に、片側から照らされた状態で、こちらを見ている彼は、小さく、「止めなさい」と言った。



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