レオニスの泪
家族でもなく、友人でもなく、恋人でもない。
「……仕事、辞めたんだってね。」
それなのに、容易に触れることの出来るこの距離を。
「……はい、もう……限界で……」
一体、何と呼ぶのだろう。
「ウチに来る?」
「え……?」
顔を上げると、神成の優しい顔がある。
「約束通り、ハウスキーパーきてくれる?」
「約束って……約束なんて、してない……っていうか、あれは冗談じゃ……」
「本気だって言わなかったっけ?」
「~~言いました!言いましたけどっ……」
困る私を見て、神成は楽しんでいるような表情をしている。
でも彼方此方(あちこち)に、優しさが主成分として隠れている。
神成が優しいから、自分はそれを利用しようとしている気がしてならない。
だけど、死活問題なのは確かだ。
でも、そんなことよりも。
「先生の大切なひとは……」
以前、似たような質問をした時は、答えてもらえなかった。
だけど万が一、こんな自分のような、どこの女で、どんな関係かも分からない人間が、神成の家に出入りしているのを目撃されてしまったとしたら、それは絶対プラスには働かないだろう。
だって、間違いなくその人はいるのだ。
神成の心の中に。
だから。
神成は、未だ、その人の事を想っているに違いないのに。
「大丈夫。」
なのに。
「僕の大切な人は、もう、何処にもいないから。」
神成は、いつも通りの、笑っているような表情を浮かべて、そう言った。