レオニスの泪
「祈さんは、もう、これ以上自分を傷つけちゃ、駄目だ。」
永遠に続くかのように長く感じた沈黙を破って、神成が呟く。
反射的に顔を上げて、神成を見ると、彼はさっきと変わらず、穏やかな眼差しで私を見ている。
それがほっとしたようで、悔しくもあった。
「僕は、君の前の夫や、上司と同じにはなりたくないんだ。」
言われてハッとする。
目尻に残っていた涙が一粒、転がり落ちて行った。
「恋は、愛とは違うんだよ。君の表面だけしか見ない人間に、僕はなりたくない。それに―」
僅かに首を傾げた神成が。
「寂しさから、逃げる為に、恋をして、それは君を救うことになるの?」
私に、真実を、痛すぎる程まっすぐに。
「人からもらった温度ばかりじゃ、君自身が発熱できなくなる。」
目を、逸らすことも、かといって、突き刺すこともなく。
「君が向き合わなきゃいけないのも、抱きしめてあげなければいけないのも、君自身なんだ。」
手近な所で、安心を手に入れようとした弱さを、告げる。
まるで、影となって、自分自身と切り離すようにして。
誰も背負ってくれないこの荷物を、放って、感情の赴くままに流されて、逃げようとしたことを。