レオニスの泪
自分のアパートを通り過ぎ、そのまま、目の前のライバル、いやマンションに向かう。
もう、保育所を出た辺りから、いや、昨日の夜から、心拍数は上がりっぱなしだ。
マンションの周囲は、品よく植栽されていて、居住者はファミリー層ではなく、独り身や年配の夫婦等が多いのだろうと思った。
「おはようございます。」
硝子張りのエントランスの前に到着して、自転車はどこに置けばいいか迷っていると、管理人のような男性が出てきて、挨拶してくれる。
「おはようございます!あの……ここに住んでる方に用事があるんですけど、自転車って……」
そこまで言うと、男性は直ぐに察したようで、来客用の駐輪場迄案内してくれた。
「ありがとうございました」
お礼を言うと、男性は会釈してから、手にしていた箒と塵取りで掃除を始める。
――しまった、時間。
鞄を肩に掛け、携帯で確認すると、約束の時間の五分前だ。
慌ててエントランスまで戻って、集中インターホンの前に立った。