レオニスの泪
――707、707……
押さなければならない部屋番号は分かってはいるのだが、いかんせん、緊張する。
踏ん切りがつかないというのか。
ここにきて、観念するべきなのに、指先が震えてしまう。
――せめて、カメラがなかったら、良かったのに。
インターホンを見れば見る程、決意が鈍る。
チラと携帯の時計を確認すると、あと2分だ。
初日から遅刻は避けたいし、先方にも予定があるのだ。迷惑はこれ以上掛けたくない。
――えいっ!
半ばやけくそで、ボタンを一息に押す。
《――おはよう、入って。》
「あ、は、はいっ」
すると、直ぐに応答があり、緊張に拍車がかかった。
ロックされていた自動ドアが勝手に開き、カチコチな足取りで、中に入る。
ホールは吹き抜け。
ソファとテーブルが3つ配置されていて、木製の階段で、二階に上がれるようになっていた。
照明にはルイスポールセンばかりが使われていて、モダンな雰囲気。
エレベーターホールに行き着くと、エレベータの中が外付けのモニターで確認できるようになっている。
――いちいち高そうなマンションだなぁ。
自分の住むアパートは、ライバルにすらなれっこないじゃないか。
そう思うと、持っている緊張に、委縮がプラスαされた。