レオニスの泪
今日から泊りがけで学会に行くのだそうで。
仕事が忙しくて、部屋を片付ける暇がなく、留守の間に片付けておいて欲しい、と。
神成はそう言ったのだ。
「玄関から途中部屋がふたつあるけど、大体リビングで過ごすことが多いから、そこが一番散らかってるかな。」
私がスーツケースを見てぼうっとしている間に、神成はスタスタと中に入っていく。
「っお邪魔します……」
慌てて後を追う為、靴を脱いだ。
白っぽいフローリングは家全体を明るくさせている。
「ここが洗面所とか――」
――ていうか……
「これはキッチンの――」
涼しい顔して、家案内する神成の背中を軽く睨みつつ――
――全然きれいじゃないですか……
ハウスキーパーの必要性はかなり薄い家だと思った。
「こんなところかな。そろそろ僕はもう行かなきゃいけない時間だから、あと、宜しくお願いします。これ、鍵、渡しておくね。」
「あっ、はいっ」
神成が急に振り返るので、慌てて仏頂面を戻して、差し出された鍵を受け取った。
「何かあったら気にせず、何時でも、携帯に電話して。」
「あ、はい。」
「じゃ、いってきます。」
「い、いってらっしゃい。」
そんな慌ただしいやりとりの後、玄関のドアがパタンと閉じる。
神成のミントの香りが、鼻をくすぐり、誰もいなくなった部屋に残る自分は、落ち着かない。