レオニスの泪
神成と星の話をしたのは、たった一度だけだったと記憶している。
『ライオンの心臓』
ドクドクと胸が鳴る。
一人でいる時。
神成はいつも、空を見上げていた。
あの日、神成は自分に何と言ったか。
『ひとつ一緒に探し物してくれない?』
夏の空には、ないのに。
見えない星を、探していた。
Cor Leonis
そう書かれている写真を見つけて、あの時聞いた話は、神成自身の中にある重要な部分だったのだと知った。
ベッド脇の棚の上。
写真立ての中に、入ったポストカードのような星のフォトグラフ。
そして、その手前に輝く、ひとつのシルバーの輪。
今朝、神成が間違いなく、その片割れを指にはめて行った。
余裕がなかったから、最初は気付かなかったけれど、玄関を出ていく時、外の日光に反射して、確かにキラと光っていた。
それはまるで、私への警告のようだ。
『これ以上近づかないで』
心臓と一緒に、指が震える。
リングケースに入っているそれを、触れてはいけないと思いつつも、知りたくて、手を伸ばした。
――どんな人だったんだろう。
自分の指より小さめな輪を見て、心がささくれ立つ。
――何て人だったんだろう。
ついに手に取って、目にする。
「……あか、り……」
アルファベットで書かれた、神成が愛して、待ち侘びている人の名前を。