レオニスの泪


誰もいない家から、誰もいない家(うち)へ帰ると、何とも言えない虚無感に襲われた。


「しんどい……かも……」


ぽそ、と呟いて、床に突っ伏した。

羽織ったコートも、持っている鞄もそのまま。

勿論、身体的にしんどいのではない。
精神的に、だ。

病院の食堂とは違う、苦しさ。

入ってはいけない境界が、ないようで、ある。
それは、線を引かれているというよりは、壁が余りに高いから、上ることも諦めてしまいそうな向こう側。

届かない。

その表現がぴたりと当てはまる。


――何で、好きになっちゃったんだろ……


目を閉じると、いつもと違う、別人みたいな今日の神成の姿が浮かんでくる。

ポケットに入った鍵が、金属音を立てて。

胸が、ぎゅっと締め付けられた。


神成が帰宅するのは明後日。

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