レオニスの泪
やはり思い切って仕事を辞めて良かったと感じている。
全て改善されたわけではないが、それでも、大分気持ちのゆとりは出てきた。
お陰で、慧にも優しく振舞えているし、家事もこなしやすい。
体力的にもきつかったし、金銭面での不安や痛手はあるものの、なにより精神面での苦痛から逃れられたのは大きい。
【そう、なら良かった。じゃまた明日……おやすみ。】
「っあのっ!」
電話が終わってしまいそうになって、私は反射的に呼び止めてしまった。
【……どうしたの?】
神成は、いつもこんな風に返してくれる。
迷惑そうな、どうしたの?じゃない。
訝しむような、どうしたの?じゃない。
先を促してくれる、どうしたの?をくれる。
いいよ、僕は聞くよ。いつでも。どんなことでも。
そういう姿勢を感じる。
それは、精神科医としての彼がそうさせるんだろうと思うんだけれど。
「星……レオニスは、今、どこに見えるんですか……?」
彼の琴線に触れるだろう質問を。
つい、訊いてしまった自分は、意地が悪いだろうか。