レオニスの泪
予想した沈黙はなかった。
【レオニス??あぁ、今は、北東の空に見える筈だよ。】
淡々と方角を教えてくれる神成はいつもと変わらない。
私が寝室を見た事も、昨日のメールで分かっているだろうし、今の質問の意図だってきっと理解している。
でも、変わらない。
「そう……ですか……ありがとうございます。探してみます。おやすみなさい。」
それにがっかりする自分は、一体神成の何を見たいのか。
返事を待たずして、切った。
携帯の画面に表示される通話終了の文字。
「はぁ……これじゃ、迷惑だよ……」
祈るように閉じた携帯を持ちながら、自己嫌悪に陥る。
こないだみたいに、余裕のない、先生じゃない神成が見たい。
弱さを、曝け出してくれる神成が見たい。
神成の傷に触れたい。
そして、できることなら助けたい。
医者に対して、そう思う患者はおかしいのだろうけど。
それでも、確実に神成は、痛さを知っていて。
何かにひどく傷ついて、そして生きている。
背負って、生きている。