レオニスの泪

「それ以上言うと、本当に怒るよ。」

神成の声はさっきよりも更に冷たさを増して、寒気さえ感じる程だ。
相手も怯んだようだ。
それ以上の会話は、もう、なかった。

代わりに人の気配が遠退いていく。


「……ママ?」

黙ってくれていた慧が、繋いだ手を、くいと引っ張りながら、私の顔を覗き込む。

「あ、慧ー。ママもお手洗い行きたくなっちゃった。手洗う所で待っててくれる?」

「うん!いいよ。」

慧と一緒に、来た道を引き返して、トイレに戻る。

「直ぐ出てくるから待っててね。」

3つあるトイレは、誰も居ないから、どこでも選びたい放題だ。
私は、手洗い場に――つまり慧に――一番近い手前のトイレに入る。

入って、鍵を掛けた瞬間。


「……………は……」


殆ど音にならない笑いと。


「――――――」


熱になる感情が、身体の内側を喉まで駆け上ってきて。



――やっぱりじゃん。


危うく、泣きそうになった。


――やっぱり、『理由』はあったんじゃん。





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