レオニスの泪
本当ならここで。
「はい。ありがとうございます。」
身を引けばいいのに。
「じゃ、おやすみなさい。祈さんが家に入るの確認したら行くから、もう行って。」
今の関係に甘んじている私は、狡い人間だ。
「えっ、大丈夫ですよ。すぐそこなのに。」
「駄目。僕が心配なの。」
「分かりました……なんか、すみません。」
神成に頼らないと、自分は慧と路頭に迷うことになってしまう。
背に腹は代えられない。
だから、まだ、言わないでおく。
「……おやすみなさい。」
「おやすみ。」
一瞬絡み合った視線に過敏に反応した私は、不自然に目を逸らした。
階段を上る音が、うるさい。
自分の心臓の音みたいに、うるさい。
それは、行きの時のような胸の高鳴りとは違って。
苦く重く軋むような痛みを伴う音だった。