レオニスの泪
朱バツがいっぱいついた求人誌を片手に、私は家を出る。
――最後まで話聞けっての。
いくら断るにしたって最低限の礼儀ってもんがあるだろう!と一喝したくなるのを堪えつつ、冷たい空気を切りながら、自転車を漕いだ。
直ぐそこだから、歩いて行ってもいいのだが、荷物が沢山あった。
今日は、神成と食事をしてから迎えた月曜日。
ハウスキーパー、二度目の出勤だ。
神成の出勤する時と鉢合わせしないよう、時間をあえてずらして、エントランスの自動ドアを、借りている鍵で勝手に開け、こないだよりはスムースに中に入った。
「おじゃましまー……す」
誰もいないと分かっていながら、薄っすらとした背徳感から、思わず断りの文句を呟いてしまう。
ドアを開けた瞬間から漂うミントの香りは、人工的なものではなく、台所にある植木鉢に植えられたペパーミントと、恐らくアロマオイル的なものがどこかにあって、それが、神成からいつも香っていたのだと知った。ハーブの香り。中でもミントが一際強い。
――ここに、アカリさんも一緒に住んでいたんだなぁ。
考えないようにと決意した癖に、部屋に入った瞬間、そう思ってしまうと、景色がまるで違って見えてくる。