レオニスの泪
どういう経緯で別れてしまったのかは分からない。
だけどもしもアカリさんが帰ってきたら、神成はきっと私の事なんて吹っ飛んで、忘れてしまう事だろう。
それでも、もしかしたらたまに、私の事を思い出してくれる瞬間もあって、それが食事の時とかで、私の味付けなんかをふっと。
それすら似ていたら、もう完敗だ。
自分のドッペルゲンガーだと思うしかない。
私より先に出逢ってしまっただけのこと。
――こんな小狡いこと考えてる女ってやだな。
はは、と自身の惨めさを笑いながら、神成のマンションを出た。
気付けば、とっくに昼を過ぎていた。
自宅に帰って、家事を一通り済ませ、今度は保育所へと慧を迎えに、自転車を走らせる。
「おかえりなさぁい」
保育所に着くと、慧が私を嬉しそうに出迎えた。
慧が笑っているのを見ると、最近ほっとする。
自分がしてあげられていることは、非常に少ない筈だけど、それでも何かしらを与えられているのかもしれない、と、思えるからだ。
「こんばんはー、おかえりなさい。慧君今日もよくがんばって、ひらがな教室楽しんでいましたよ」
所長さんが事務室の前を通る時に声を掛けてくれ、少し立ち話をした。