レオニスの泪

「聞いてる?」





苛立った口調で訊ねれば、じわじわと、慧の大きな目に涙が浮かんできてしまう。




―やっちまった。



そう、思う。



ついつい、捲し立てて、くどくどと言ってしまった。



いってらっしゃいの時間に、子供を叱るのは良くない。



子供の一日が決まってしまうから。


家という城を出て、社会という緊張する世界で頑張る子供に、帰りにちゃんと会えるのか、わからないから。


もしかしたら、最後の一言になってしまうかもしれないから。





自分を落ち着けるように、吸った息を吐くが、全く治まらない。





「慧、先に自転車の所まで行ってて。ママも、鍵締めたら直ぐ追いかけるから。」



「………わかった…」




小さな小さな返事をして、慧はとぼとぼと家を出る。



ガチャン、と玄関の扉が閉まった音が、やたら耳についた。




「あーあ…」



額に手を当てて、束の間。



「あ、やばっ」



時間がないことに気付き、慌てて行動を再開した。

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