レオニスの泪
「じゃ、そろそろ失礼しますね。」
「あら、遅くなっちゃいましたねぇ。ごめんなさいね、引き止めちゃって。また明日ね、慧君。」
「さようならぁ。」
「さようなら。あ、そうそう。最近近所で不審者情報が相次いでるから、気を付けてくださいね。」
「そうなんですか。全然知らなかったです。ありがとうございます。」
慧と並んでお辞儀して、保育所を後にすると、前の道路にお迎えの車がひしめき合っていた。
その間を慎重にすり抜けて、駐輪場へ向かった。
「ねぇ、ママぁ。」
慧の荷物を、前のかごに入れていると、後ろで待っている慧が呼ぶ。
「なぁにー?」
振り返らずに、荷物をぎゅうぎゅうと押し込みながら、返事をした。
「うつびょうってどんなびょうき?」
――――――
「――え?」
あまりに無防備に、予測もしないで、受け取ったキャッチボールの玉は、取り落しそうになるほど、胸がドキリと鳴る。
巾着袋の紐を縛っている途中だったが、思わず慧を振り返った。
「だからぁ、うつびょうってどんなびょうき?痛いの?」
無邪気に訊ねる慧を、自分がどんな顔して見ているかどうか分からない。でもきっと茫然としている。