レオニスの泪


脚に力を込めて、自転車のペダルを踏みこむ。


――いつの間にか、考えることが、ラクになってきた。


自分の回復を、初めて自覚した瞬間だった。

それには、職場を辞めた事や、勇吾への未練みたいなものを断ち切った事が、大きな要因として考えられるけど。

その他にも。

言葉の処方箋を、私は神成から幾つも幾つも貰ったんだ、と思った。

色んな感情を、中途半端に、放置してきて、そのツケがまわって来た時。

自尊心が崩壊して、自分が、自分を評価できなくなった。

そしたら世界は、社会は、自分にとって、敵だった。

味方なんて誰もいないし、それどころか、自分は必要とされていない、要らない人間なんだと勝手に思った。

社会から孤立した人間のような気がしてた。

だから、慧にも優しく出来ず、悪循環に陥っていた。

だけど、慧が居たから、自分がここまでやってこれたという事実もある。


自分が一体なんなのか、その位置づけは、いまだに出来ないけれど。


神成は、そんな自分を責めるなと言った。


――いいんだ、これで。


自分の弱さ、脆さを認められた時。


初めて人は強くなれるのだ、と神成は言った。


それは、真実だったと痛感している。


私は自分を、過信していた。

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