レオニスの泪
慧としては反発心もあったのだろう。


それでも、私のことを考えてくれたのも、事実だ。


そして、慧にそんな行動をとらせた原因は、私だ。




はぁ、ともう一度息を吐いて、見下ろしていた慧と視線の高さを合わせた。



「―ごめんね、慧。」



「うっ、ひっ……」




柔らかい髪を撫でて、呟けば、慧の涙の量は更に増える。




慧がちゃんと大人になるまで育てられるのか。


慧がちゃんと傍に居て、元気に大きくなれるのか。


何かの犠牲になってしまわないか。



親になると、それが、何よりも恐ろしく思えてくる。


そして。


何より、自分自身が潰してしまわないか。



「ごめんごめん。ママが悪かった。」



慧の無事に、大きく安堵した私は、小さな身体をぎゅっと抱き締めた。





「ママと、自転車に乗って、保育所に行こう?」




自転車置き場に戻ろうと差し出した手を、当たり前に握り返すこの存在は。




何よりも一番大事で。



何よりも一番厄介だ。
< 47 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop