レオニスの泪
気が動転していて、病院の名前を聞き取れなかった。
「え、あ、よかっ…………」
それよりも、何よりも、慧が居てくれた。
この世の中に、いてくれた。
息を、していてくれた。
その事実を知って、声が声にならず、代わりに涙が零れ落ちた。
その前に流したものとは違う、涙だ。
「良かったですね!!!今から私たちも行きましょう!」
一緒に待機してくれていた警察にも詳しい報告が入って、安堵の声が上がる。
目立った怪我等もしていないと分かり、腰が抜けたように、強張っていた全身から力が抜け、その場に座り込んだ私を、婦人警官が支えてくれた。
パトカーで向かった先は、まさかの大学病院で、私が勤めていた食堂が入っていた場所で、少々面食らったが、処置室に通されたら、そんなことは微かにも気にならなかった。
周囲が何て言って、案内してきたのかも、記憶にない。
ただ、ベッドの上に、ちょこんと座って、泣きもせずに、入って来た私を口を開けて見ている慧が。
「け、慧っ……」
「ママ……?」
駆け寄ろうとした私を、やっとはっきり確認し、あっという間に顔をくしゃくしゃにさせて、真っ赤になって泣き出した慧が。
「慧っ!」
「ママぁ……!!!!」
抱き締めた、体温のある、何にも代えることのできない、息子が。
わーんわーんと大きく肩を震わせる、愛する息子が、無事に生きててくれた。
その実感を、文字通り、肌で味わう。
失われなくて、奪われなくて、この腕の中に居るという事実を、頭に刻み込んだ。
そして、とにかく、全てに感謝した。