レオニスの泪

ありがとうございます、ありがとうございます、と、何度も何度も頭を下げ、言った。


慧の隣に付き添うように立っていた警察官は若く、さっき電話してきた彼かもしれないと思う。

慧は、抱っこされたまま、私から離れようとせず、私も放そうとしなかった。


「あの、、葉山さん。折角会えた所なのに申し訳ないのですが……ちょっとお訊きしたいことがあるのですが……。」


慧の手前、警官が少し言葉を濁した為、抱き上げた慧を見るが、慧は私の首に腕をぎゅうと回したまま、石のように動かない。


「このままで、良いですか?」


そう言うと、警官は少し間を置いた後で、慧には見えない方向―つまり慧の背中側―から、一枚の写真を私に見せた。


「この女性、……ご存知ですか?」

肩までかかる茶色い髪。
色の白い、目がクリッとしている、30代と思われる女性。

どうしてこんなことを訊かれるのか、全く分からないまま、考えたり、思い出そうとしたけれど、不可能だった。


それ位、知らない女性だった。
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