レオニスの泪
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「葉山さん?顔色が悪いけど、大丈夫?」
スチームコンベクションオーブン、略してスチコンの前で、一瞬だけ眩暈を感じて、ふらりとよろけると、チーフの金森が声を掛けてきた。
慧の捜索に時間を食ったものの、就業時間にはぎりぎり間に合った。
自転車だったから良かったものの、雨でバスなんかになっていたら、完全にアウトだった。
「あ、すいません。ちょっと立ちくらみみたいな感じです。大丈夫です。」
作り笑いで答えて、自分に呆れた。
―何が大丈夫だよ。
本当に、大丈夫って便利な言葉だな、と、自分の口を付いて出たにも拘らず嫌悪感が半端ない。
便利ナンバー1に輝いていた『大丈夫』は、今聞きたくない言葉ナンバー1にすり替わっていた。
「そう?そういえば、子供は大丈夫だったの?」
「はい、おかげさまで。」
「無理しないでね。困った時、特に子供の事はお互い様だから。」
「はい、ありがとうございます。」
ほとんどが女の職場。子育て経験者ばかりなのは助かる。
ただ、理解を示される一方、裏では何を言われているかわかったものではない。
「明日は、久しぶりに休みでしょう。ゆっくりしなさいね。」
「―はい。」
明日は確かに休みだが、大学病院には来る。
精神科の予約を入れた日だった。
でも、それを職場の人間に知られたくはない。