レオニスの泪
精神科医は、患者との恋愛はご法度。
告白されたあの夜、家の前まで追いかけて行って、ごめんと言った。
彼女にそれは伝わった。
だから、そこで終わりにすれば、良かったのだ。
終わりする、つもりだった。
引き際としては、ベストだった。
なのに、翌朝、駐車場で木戸を見かけた。
レクサスに乗り込む木戸の手には黄色い花束があった。
それが誰にあてて、かは、一目瞭然だった。
一日中、落ち着かなかった。
万が一何かされていたらどうする?
助けてくれと、葉山祈から連絡がくるだろうか。
そう思ったが、何もなかった。
――大丈夫だったんだろう。
思い込もうとしたが、上手くいかない。
気が気じゃなかった。
そして、ついに、水曜の夜、馬鹿みたいに彼女の事を公園で待ち、そして来なかった彼女の家へ、ハンカチを返しに行った。
ハンカチは、ずっと鞄にしまい込んであったから、直ぐに出せたし、雨の降る中で、いつか葉山祈と歩いた道のりを、一人で歩いた。
理由なら何でも良かった。
兎に角彼女の無事を確認したかった。