レオニスの泪
アパートの窓から、僅かに灯りが見えた時、僕にとってはそれが希望の灯となった。
――大丈夫だ、祈さんは生きてる。
息子を置いて行く訳がないと知っていても、頭のどこかで彼女の無事を疑っていなくとも、僕は深くほっとした。
けれど、心の中はどうだろう。
彼女の心の中は、今、何が占めているだろう。
気になっても、時間帯が時間帯だ。
葉山祈の玄関の前まで、階段を上って行った所で、インターホンを鳴らせる筈もなく。
自分の浅はかさに嫌気が差して、ただ、そのまま帰ろうかと踵を返す。
だけど、雨が。
雨がぽたりと、畳んだ傘の先端から、コンクリの床に落ちて、染みを作ったから。
それが、彼女の泣き顔とリンクして、僕は鞄の中から、メモとペンを探した。
公園で僕と僕の悪意をぶつけた相手を目撃した葉山祈への、懺悔のような。
だけどそれが伝わらないように、分からないように。
【いつかの落とし物です。もう、一人で泣いていませんか?】
どうか、一人で泣かないで欲しい。
泣くなら僕の前で、泣いて欲しい。
一人だけで流した涙は、きっと辛いから。
誰かと一緒に共有した涙は次へと繋がるから。
だからどうか、僕の前で、泣いて欲しい。
僕を頼って欲しい。
隠してはいても、そんな思いが、きっと、溢れていた。