レオニスの泪
ドアポストに入れたハンカチは、カタンと小さな音を立てる。
外の雨音が、さっきより弱くなっていても、それよりも小さく。
僕は、そんな虚しさを感じる音に、背中を向けながら、同じように小さく笑った。
楽しくて笑ったんじゃなく。
嬉しくて笑ったんじゃなく。
どこか冷めた。
どこか嘲る様な。
無力な自分に対する笑みだった。
階段を下りて、外に出れば、また雨がバラバラと降っている。
勿論、空に星等望める訳もなく。
肩を竦め、傘を差した。
後ろ髪引かれるように、ゆっくりと歩きだし、そんな自分をまた笑い、今度は少し速足で歩いた。
と、その時だった。
『―――先生っ!!』
闇夜と雫の間に割って入った声が、微かに耳に届く。
弾かれた様に振り返った。
焦ったような、転げ落ちるように階段を駆け下りる足音が、深夜に響く。
そして、道端に出て来た彼女は。
この冷え切った空の下、素足のままで。
真っ暗な黒の中で、白い光のように辺りを照らした。