レオニスの泪


葉山祈の家に、こんな深夜に入るのは気が引けたが、僕は足を血だらけにしている彼女を放っておくこともできず、かといって、自分の家に連れて行くのも、息子を置いて行くことになるんだからまずい。

あれこれ理由を付けてはいたが、結局の所は、怒っていたというのが大きな要因で、それがなければ、あんなにずかずかと他人の家に入ったりはしなかっただろう。


遠慮しまくる彼女を威圧的に黙らせて、タオルを濡らす際、テーブルの上にかわいらしく揺れる花が目に入った。

それは、木戸が先日手にしていた花束と同じ黄色で。
奴がここに来た事を表す動かぬ証拠だった。


――どうして傷つくのが分かっているのに。

どうして、思い出すことを分かっていながら。

木戸が来てしまったことは、仕方がないことなのかもしれない。
彼女がどう足掻いたって、避けようとしたって、木戸が来ると決めれば来るだろうし、会ってしまうだろう。

だけど、どうして。

花なんか捨ててしまえばいいのに。

この人はどうして、自分を苦しめる要因までも、大切にしようとするんだ。

どうして、もっと楽に生きないんだ。


< 487 / 533 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop