レオニスの泪
葉山祈の家に、こんな深夜に入るのは気が引けたが、僕は足を血だらけにしている彼女を放っておくこともできず、かといって、自分の家に連れて行くのも、息子を置いて行くことになるんだからまずい。
あれこれ理由を付けてはいたが、結局の所は、怒っていたというのが大きな要因で、それがなければ、あんなにずかずかと他人の家に入ったりはしなかっただろう。
遠慮しまくる彼女を威圧的に黙らせて、タオルを濡らす際、テーブルの上にかわいらしく揺れる花が目に入った。
それは、木戸が先日手にしていた花束と同じ黄色で。
奴がここに来た事を表す動かぬ証拠だった。
――どうして傷つくのが分かっているのに。
どうして、思い出すことを分かっていながら。
木戸が来てしまったことは、仕方がないことなのかもしれない。
彼女がどう足掻いたって、避けようとしたって、木戸が来ると決めれば来るだろうし、会ってしまうだろう。
だけど、どうして。
花なんか捨ててしまえばいいのに。
この人はどうして、自分を苦しめる要因までも、大切にしようとするんだ。
どうして、もっと楽に生きないんだ。