レオニスの泪

葉山祈の職場復帰初日の事は、脳裏にはっきりと思い出せる。

金森から連絡を受けて、僕は彼女が木戸に受けた仕打ちを知った。

ずっと木戸の事が気に掛かってはいた。

なのに。


未遂とはいえ、自分が彼女を守れなかった事が悔しくて、気付けば、握りしめた掌に爪の痕が食い込んでいた。

また、守れなかった、自分は、と。


《私達もこんな早く木戸さんが来てるなんて知らなくて……葉山さん、顔面蒼白で飛び出して行っちゃって……戻ってきたら、仕事を辞めるって言ってました。》


金森には以前、葉山祈が発作を起こした時に、何かあれば連絡をくれるよう伝えてあった為、案の定というべきか、彼女がいつものように僕に頼ることができなくとも、こうして情報を得ることが出来た。

即座に、恋人ではないのに、恋人のようなメールを打った。

そこまで追い込んだ木戸の事が腹立たしかったし、木戸がそれで彼女の事を諦めるとは考えにくかった。

そんな日に、流石に真夜中の公園で、というわけにはいかない。
けれど、彼女の口から、何があったのか、聞かないと意味がない。

少しでも彼女がリラックスして話せるよう、温かい珈琲を用意した。



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