レオニスの泪
少し前にした提案は、今でも自分の中に残っていて、この時は、少し調子に乗っていたのかもしれない。
越権だと思う。
医者と患者の境界線を越えている。
そんなのは、もう、はっきり理解してた。
でも、ただ、ただ、彼女の力になりたかった。
彼女に、甘んじて欲しかった。
そうすることで、僕は楽になるから。
あの日から動かなかった時計の針が、ゼンマイが巻かれて動き出すように。
それが。
『先生の大切なひとは……』
『大丈夫。僕の大切な人は、もう、何処にもいないから。』
彼女をどれほど利用することになるのか。
『私、先生の事が好きだって言ったんですよ……?どこにもいないなら……どうして、私を見てくれないんですか??』
どれほど傷付けるのか。
『祈さん……』
『大切な人がどこにもいなくて、こんな風に私に触れたり、先生の家に行ったりしていいなら、どうして、私を好きになってくれないんですか……?なれないんですか?』
『それはーー』
『先生は、まだその人の事が好きなんじゃないですか?先生の中にその人は住み着いているのに、どうして、私を守るとか、簡単に言えちゃうの?』
どれだけ、苦しめるのか。
自分自信の首も締める事になるということも。
全部、分かった上で。