レオニスの泪



『私はっ、先生が、好きなんですっ』



彼女のぶつけてきた感情と唇は、相反する熱の持ち方で、激しい想いと、氷のように冷たい温度。


――僕達は、駄目だな。


泣きそうな位、僕は冷静に、そう思っていた。

僕達二人は、お互いに、与えてもらおうと思っているから。

彼女は、僕から何かを受けようとしている。
必要としている。
それが愛なのか、恋なのか、生活なのか、何なのかは、知らない。
だけど、僕自身はもっとタチが悪い。
僕は与えるふりをして、彼女から受けている。


【愛とは、第一に与えることであって、受けることではない】

ドイツの社会心理学者、エーリッヒフロムが、愛についてそう主張した。
僕はそれが正しいと知っている。


だから、僕等は、成り立たない。

恋はあっても、愛にはなり得ない。

これ以上、こういう形で、彼女に近付き過ぎてはいけない。

こういう形で、彼女を傷つけるのは、絶対にしてはいけない。
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