レオニスの泪


彼女に触れるということは、そういうことだ。

僕は、彼女が、僕に頼ることを望んでいるけど、こうした形ではまた同じになってしまう。


彼女は僕の温度で覆っても、意味がない。
彼女は彼女自身で温かくなる強さを持たないと。

そうすればきっと彼女は、また笑うことが出来る。
あの時の笑顔じゃない。
大人になるという事の苦労を知らず、自分の若さと愚かさだけを疎んじ、社会を憎むだけだったあの頃のような、屈託のない笑顔じゃなく。

何かを守る事を知った、強さを兼ね備えた笑顔。
そんな今の自分を受け容れる事が出来た笑顔は、強さと誇りを持つことが出来た証拠だ。

そんな笑顔を、取り戻すんじゃなく、新しく生み出すんだ。

そうすることで、彼女と彼女の息子は救われることになる。

僕は――医者としてのそんな考えと、相反するような自分の感情を、同時に持ち合わせながらも。

そのどちら側からも望む事は、彼女との繋がりだけは、守っていきたいと願っていることだった。




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