レオニスの泪



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仕事を早く終えて、駐車場へと向かった。
急いでいけば、もしかしたら彼女が家に帰っているかもしれない。
会えるかもしれない。

だが、アパートは暗く、それは主の不在を意味していた。
そのままマンションに一旦は帰ったが、一人で家にいるのも落ち着かない。
仕方なく、久世の店まで足を延ばした。

溜め息を吐きながら、歩いていく。
酒を呑むつもりはなかったが、なんとなく車には乗らなかった。

朱李のことがあってから、僕は人付き合いをほとんど避けていて、特に大学の頃の友人関係は途絶えていると言っても言い過ぎではない。

だから、久世位だ。

久世は岩崎と仲が良かった。
僕は岩崎と仲が良かった。

だけど、朱李が死んだ後。
いやそれよりも前。
研修医だった頃の病院で、朱李の事を注意されて以降、岩崎と僕はどちらからともなく、連絡は取らなくなって行き、関係は希薄になった。

朱李の葬式で、会ったのが、最後か。

その代わり、ではないが、僕と朱李の両方を知っているけど、岩崎程深くは知らない久世が、転勤先近くで店を開いているという知らせを聞いて、引っ越し時に足をふらりと延ばしてから、久世との親交が深まった。


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