レオニスの泪
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火曜日。


病院は午後の予約にして、午前いっぱいは、家のことに費やした。


元々この日に休みのシフトを出していたのは、他の誰も休みじゃなかったから。それだけが理由だった。


使わないと有給がなくならないし、たまにはいいか、と思ってとったのだが、それが幸いした、というべきか。

新しく休みを申請しなくて済んだ。





大学病院の精神神経科は地下一階の奥の奥にあった。


私が働いている食堂は8階なので、遠くてほっとした。




―うわ、混んでる。




待合室は、パッと見、女性が多く見られるが、お年寄りも多い。



緊張しながら、ベビーフェイスは居ないことを確認し、受付を済ませた。



つばの広い帽子を深く被って、マスクをして、隅っこの空いている席に座る。



花粉症の時期は過ぎているし、室内なのだから、明らかに変質者だが、誰に見られてもわからないようにと願ってのことだった。



―人混み、苦しいな。



近頃、人が沢山居る場所で、息苦しくなることを、自覚するようになってきた。


周囲を見渡すことさえ、嫌でたまらなくなり、俯いてじっと待つ。



1時間程して。



「葉山さん、10番にお入りください。」



「あ、はい。」


やっと呼ばれたか、と思いつつ、立ち上がる。


仕方ないのだろうが、予約してもこの遅さかと、うんざりした。


診察が終わり次第、少しでも早く慧を迎えに行ってあげたいと思っていたのもある。


このままだと、いつもと余り変わらなさそうだ。



「10番、10番…」



12番まである診察室。


受付の近くが1番なので、そこから数えると奥の方に10番はあった。



「失礼します。」



声を掛け、中に入る。
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